2010年9月27日月曜日

無名舎


京都に行きますが
どの庭園を訪ねるのがいいでしょうか
造園設計の先生にそう尋ねた

 それならぜひ
 吉田家へ

頻繁に京都に通っていたが
知らなかった
運よく予約が叶った

『無名舎』(むめいしゃ)
京都らしい古い町屋の入口に
小さな看板があった

  どうぞ
  ようお越し

ひんやりとした
暗い部屋に上がりこむと
 うわぁぁ
 きれい
部屋に入ったとたんに
外に目が行く

電気の点けられていない
暗い部屋から
閉められた葦戸(よしど)から
陽に照らされた
中庭がはっきり見える

影絵の世界に入ったよう

狭い間口の奥に
中庭が二つもある

家は家でありながら
まるで中庭がメインであるかのように
庭を見せるための部屋がつづく

つくばいや飛び石に
打ち水が光り
石も不思議な色を見せる

  葦(あし)でできてますねんけど
  アシは 悪し に通ずるゆうて
  縁起悪いですよって
  わざわざアシドやのうて
  ヨシドいいますねん
  
  朝と夕方 打ち水しますねん
  打ち水いうからには水を打ちますねん
  石には石への水の打ち方
  苔には苔への水の打ち方
  よう説明できませんけど
  手がちゃんと加減して
  ええあんばいに喜ぶように
  打ちますねん

  侘び助咲いてるときは
  部屋にも花活けませんねん
  侘び助に敬意をみせて
  それはちゃんと伝わりますわ

  このつくばいには
  中秋の名月の日にちょうど
  お月さんがまん丸入るように
  しつらえてありますねん
  昔の人はえらい粋なことしはりますわ

2時間ちかくも丁寧なご説明をいただいた

  こんな静かな静かな
  不思議な雰囲気のお客さんは初めてですわ
  なんや今日はよおしゃべってしまいましたわ

先生にご紹介いただいてきたことを伝えると

  そりゃあ家が喜んでますわ
  私もなるほどとうれしいですけど
  この家はもっと喜んでくれてますわ
  家は生きてますからなぁ

このお家とも
このお上さんとも
貴重な出会いをさせていただいた

胸いっぱいに
吉田家を辞したあと
無意識につぶやき続けた

大事にしたら
大事にされる

御蔭様でまたひとつ学ぶ
日常のひとつひとつに
深い気持ちを込めて
生活すること

いつも有難う御座います