完全看護に甘えて
伊勢か比叡山に
一日参りに出かけようか
と我が儘な企みもしていたが
母は日に日に
寝たきりへの道を
辿っている
病室に張り付いてもいたいが
やはり
祈り場を求めたい
運よく近くに
太融寺がある
ここもよく
参らせていただいた
朝早く
御数珠と観音経を持って
お散歩
観音堂に
上がらせていただく
ひんやり
外と違う空気が漂う
人間は誰もいない
ことをいいことに
厚かましくも
正面まで入り進む
この広い観音堂を
守る者のようなふりをして
ドッカと座り込むと
外の光りで
真っ暗に見えていた
奥から
金色の
千手観音様が
現れ申した
ここまで進んで
ようやく
輝く御姿を拝めるよう
粋な仕掛けが
なされてる
とろとろと
身体の力が
抜けていく
観音経を読む声を
しっかり
千手観音様に聴かれてる
ように感じ
ときどき顔を上げ
表情を伺う
母の顔を伺う
幼子のように
観音様の御顔に
母がだぶり
気付かされる
自分もまた
観音様に憧れて
進んでいることに
御蔭様で
戻ってなお拝む
ベッドの御顔
いつも有難う御座います